むかしむかしあるところにガイジがいました。
むかしむかしあるところにガイジと普通の一般通過オタクがいました。ガイジは高2、オタクは高1。同じ部活の先輩と後輩という間柄でした。
ガイジ先輩は、部内でも爆弾のような扱いをされており、できるだけみんな関わるまいと立ち回っていました。とにかく自分のペースで話をする、仕事ができない、気に入った人に執拗に絡むの三拍子揃っていました。しかし、そんなやつがいる以上、人柱が必要なのです。人柱というより、ガイジのお気に入りと言った方が適切でしょう。それが一般通過オタクになったのです。
ガイジのお気に入りというのは想像を絶するものでした。毎日同じ話を繰り返す、執拗に絡んでくる、とにかくテンションが高い、こちらが返す隙を与えず散弾銃のごとく話してくる、当時の一般通過オタクは心が荒みきってました。
しかも、その部活は活動が終わると自然と同じ方面の人は一緒に帰るという慣習がありました。
3年生が引退してからは、ガイジ先輩、一般通過オタク、普通のJKの3人で帰ることが多かったのです。
途中まで3人で帰り、ガイジ先輩と別れ後は2人という道のりでした。
そこで一般通過オタクと普通のJK、2人になった途端一般通過オタクは毎日愚痴をこぼします。普通のJKはなんと何にも面白くない愚痴を優しく毎日聞いてくれます。2人だけの短い時間で話しきれなかった愚痴をメールでやり取りしても、なんとまあ聖母のように全部返してくれるではありませんか。
一般通過オタクは心をすり減らしながらも普通のJKのおかげでなんとか毎日生きながらえていました。
しかし、そんな折不幸な出来事が起こります。今でも一般通過オタクは鮮明に覚えています。高1の3月14日、普通のJK含む女子3人が部活をやめるというのです。その3人は大変仲が良く、何人が本当にやめたいと思っていたのか定かではありませんが、とにかく3人女子部員全てがやめて行きました。
3人のうち、1人はやめたいと思っており、1人は2人がやめるからやめると言っており、肝心の普通のJKがやめたいと思っていたのかは今でもわかっていません。もしかしたら、自分の愚痴を聞くのが限度を超えたのかなとも今でも一般通過オタクは思っています。
そんなこんなで高2に進級した一般通過オタクは、ガイジ先輩が引退する残りの半年を苦しみながらも仲間の手助けを借りながらガイジ先輩をやり過ごしました。辛かった以外の記憶が一般通過オタクにはありません。新しく入ってきた1年生に矛先が向かぬようガイジ先輩の興味を引き、あるいは自ら話しかけ、様々な事情が重なりうっかり部長に就任してしまったガイジ先輩の仕事を引き受けて上手く回るようコントロールしたり。でも慣れてきたのか、普通のJK無しでも1年生の頃と同じくらいしか心の歪みは生じませんでした。
そのようにしてガイジ先輩が引退した翌日から一般通過オタクは部長になり、部活を任されました。放送部の部長として学校祭の実行委員にも参加し、NHK主催の番組コンテストにも参加し、図らずもガイジ先輩で得た心の耐性を武器に学校祭は概ね成功、番組コンテストは実質全国レベルと言われる石狩地区を突破し、全道大会に進出を果たしました(昨年度の全国大会の入賞はほぼ全て石狩地区の高校から出てるため、石狩地区を突破することは本当に快挙)。
めでたしめでたし。
さて、第2部の始まりです。これは現在進行中の物語。これからどんな顛末を迎えるのでしょう。
一般通過オタクは大学に進学し、いわゆるオタクサークルに入ります。世間一般で言うところのオタクサークルではありますが、サークル員は中身はキツいオタクであるものの、典型的な陰キャオタクであったり、コミュニケーションに不安を抱えたオタクというのはほぼいません。オタクサークルの中でもわずかばかりウェイ寄りなサークルでした。
これはいいサークルに入ったと思いました。文化祭、BBQ、スキーなど楽しいオタク達と1年間を過ごしました。
さて、時は過ぎて2年生になった一般通過オタク、サークルの副会長に就任しました。
当然春の時期、新入生がやってきます。
しかし、今年の新入生はなぜか一味違いました。例年なら中身はキツくとも話が楽しくできるオタクばかり来るのですが、今年はほぼ陰キャしかきません。話が通じません。目を合わせてくれません。早口でしゃべってきます、何より会話が苦痛なのです。
3年生はバイトが忙しかったりする日もあったので、副会長である一般通過オタクが1年生の対応をする場面が多かったのです。そして1年生と話す機会が多いもんですから、右も左もわからない1年生は会話する頻度の多い一般通過オタクに寄ってきます。たまったものではありません。なぜ陰キャと好き好んで話さなければならないのでしょう。
一般通過オタクは帰り道で使う駅が一緒で同じサークルの普通のJDと一緒に帰ることがこの1年で多くなりました。人間ですから愚痴をこぼすのです。LINEやTwitterでも結構メンヘラ文章を世に送り出すのです。
しかし、ここで一般通過オタクははたと気づきました。
「これは高校の時と同じパターンでは?」と。
もしかしたら高校の時、普通のJKは自分の愚痴が原因で部活を去ってしまったかもしれなかったのです。ここで普通のJDに思うがままにぶつけていいのでしょうかと。そう一般通過オタクは気づいたのです。
普通のJDが今更サークルをやめるとは思いません。ただ、普通のJDが自分の愚痴のせいでそれを苦痛に感じてる状況というのは避けたいのです。
果たして一般通過オタクはどうするのがいいのでしょうか。
普通のJDを信用して愚痴を続ける。それとも、自分のことを嫌いになってほしくないから、何でもないフリをして陰キャとの会話でたまったやり切れない感情を別のところで処理する。
今一般通過オタクは岐路に立たされています。
「むかしむかしあるところにガイジがいました。」今後の刊行ご期待ください。